第7章 【武田 一鉄】悪戯な彼女
「あぁー!先生、今嫌そうな顔したでしょ?」
「いやいや…そんな…」
駆け寄ってきた彼女と少し距離を取る。
「ねぇ、ねぇ、先生?こないだの返事考えてくれた?」
「ちょっ!!佐藤さん!?こっちに来て!」
僕は彼女の手を引いて、進路指導室へ入った。
扉を閉めた途端、彼女は僕に抱きついてきた。
「せーんせ!大好きです」
「わぁぁーー!ちょっ!離れて!!」
慌てて突き放した僕に、ちぇっと拗ねた表情は、
普段見せる高校生のわりに大人びた彼女の整った顔からは想像も出来ないくらい
可愛らしいものだった。
こないだの返事。
それは彼女が3年にあがった春。
進路相談で進路を聞いた時だった。
「先生のお嫁さんになりたいです」
「何をふざけて…」
「ふざけてません!本気です!だから真剣に考えてください」
いつもニコニコしている彼女が真剣な顔でこっちを見ている。
まさか…何を言っているんだ。からかっているのか。
「とりあえず、まずは進路を決めなさい」
「だから、先生のお嫁さ…」
「ダメです」
「…なんでですか?」
このままでは埒が明かないと思い、少し強い口調で答えた。
「君は生徒で僕は教師だ。恋愛関係はあり得ない」
はっきり彼女に告げると、黙ってうつむいてしまった。
しかしその沈黙もすぐに溶けた。
「そんな理由じゃ納得いきません!私が納得いく理由を言ってくれるまであきらめませんからね」
その日から彼女は僕に「納得のいく理由」を求めてくるんだ。