第53章 【月島 蛍】僕は君が嫌い。
「月島くーん、お疲れ様ー」
部活が終わり、部室を出た所で彼女から声がかかる。
そこには制服の上に僕のトレーナーを着た彼女がいた。
「何してんの」
「へへへー。月島くんの匂い好きー」
そう言って、手が出ていない袖を顔に押し当てて匂いを嗅いでいる。
「明日洗って返すねー」
別に自分の家で洗うからいいよ。と思ったけど、まだ乾ききっていない下着の上にブラウス一枚の状況を作りたくなかったから、そのままにした。
「じゃぁ、俺嶋田さんの所行くから」
途中で山口を別れて、僕たちは駅に向かった。
「なにこれ・・・」
「なんかねー、今日ライブがあるらしいよー」
いつもの電車が、すごく混雑していた。
ギュウギュウに押し込められ、掴まる所がなくても倒れることはない。
次の乗車駅でもどんどんと人が乗ってきた。
「ちょっと、どこ行くのさ!」
人の波にさらわれた彼女の手首を掴み、引き戻す。
「あははー。すごい人だね~」
月島くんありがとう。と呑気に笑っている。
僕はため息をついて、ヘッドフォンを付けた。
しばらくして、Yシャツに重みを感じ、視線を下げると
彼女が僕のYシャツを掴んでいた。
「・・・何?」
「息が…苦しい…」
彼女の身長は150センチにも満たない。
混雑した車内で、空気の薄い場所にいるのだ。
顔色も心なしか悪い。
僕は彼女を扉際へ移動させ、空間を作った。
後ろから押される力に対抗しようと、扉に両手をつく。
最悪だ。帰宅途中に汗なんかかきたくないのに。
「月島くん、大丈夫?」
「・・・別に」
「ありがとう…」
彼女はまた僕のYシャツの裾を掴んだ。
「・・・何?」
「へへへー」
彼女はただ笑っていた。