第53章 【月島 蛍】僕は君が嫌い。
コンコン。
部室のドアが鳴る。
部員たちがドアに目を向けると、外から声がかかった。
「佐藤ですー。入ってもいいですかー」
「おぅ、いいぞ!」
失礼します。とドアを開けると、さっき別れたまんまの彼女が現れた。
「ひろか。どうしたんだ、その頭」
「へへへー、寝坊しちゃいましたー。あっ、みなさんおはようございます」
相変わらず、マイペース。
こういう所も嫌いだ。
「月島くーん。清水先輩今日からお休みなの忘れてましたー」
またへらへら笑って僕を見るけど、当然、知らないよ。と目を背ける。
「何?どうかしたの?」
「あっ、菅原先輩ー。清水先輩に髪結んでもらおうとしたんですー」
「そっかぁ…俺は結んでやれないしな。旭なら結べるべ?」
「えっ!俺?女の子の髪かぁ…自信ないな…」
「ひろか、女の子なんだから自分で結べるようになろうな?」
3年の先輩達に囲まれながら、跳ねた髪を自由に触らせる。
男に触られても全く抵抗しない。
僕はこういう女が嫌いだ。
「ヘアゴムとかある?」
「あっ、ないです」
「「おいっ!!」」
部員達は、彼女の天然っぷりについツッコミを入れる。
しかし彼女はハハハー。と笑っているだけ。
「俺の使う?」
東峰さんから腕に付けていたヘアゴムを受け取って
ありがとうございます。と言い、僕の前に来た。
「月島くん、やって?」
「なんで僕がやらなきゃいけないのさ」
「ダメかー。どーしよー」
「日向、お前妹いんだろ?出来んじゃねーの?」
田中さんの発言に彼女は日向の方に駆け出す。
「…僕がやるから。さっさと座ってよ」
彼女の腕を掴んで、強引に床に座らせた。
女の髪なんて結んだことはない。
でもなんとなく、こうやればいいのだろうということは分かる。
細くて少し癖のある髪の毛を僕は東峰さんから借りたクシで束ねて結んだ。
「月島、うまいなー」
「妹とかいんのか?」
周りの声に返事なんてしない。
「はい。出来たよ。これでいいでしょ?」
僕がそう言うとクルッと振り返って、満面の笑みでありがとう!と言う。
「男に髪結んでもらうとか恥ずかしくないわけ?」
僕の皮肉にも、へへへー。と笑うだけ。
こういう所も嫌いだ。