第53章 【月島 蛍】僕は君が嫌い。
6時45分。
朝練のために学校へ向かう。
校門に着く頃、気の抜けたような声が聞え、僕が振り向くとヘラヘラ笑った女が立っていた。
「月島くーん、おはよー」
「何なの、それ」
「んー?」
髪は寝癖で跳ねていて、さっきしたであろう欠伸の涙がこぼれ落ちて、年頃なのにノーメイク。制服のリボンも曲がっている。
僕はこういう女が嫌いだ。
「鏡見たら?すごいよ?」
「へへへー。寝坊しちゃってー」
僕が忠告したのにも関わらず、鏡を見ない。
僕はこういうのが気になって仕方が無い。
割と几帳面な方なんだと思う。
僕が彼女の制服のリボンを直すと、彼女はごめんねー。と本当に感謝しているのか疑うほど、抜けた声で謝る。
「あぁー、月島くん、いい匂いがするー」
首元にある僕の手首から香る香水の匂いをくんくんと嗅ぎ、はぁー。と微笑む。
「何ていう香水?この匂い好きー」
「なんで、君に教えなきゃいけないのさ」
「あははー。そっかー」
こういう反応も嫌いだ。
君は本当に知りたかったのか?
簡単に引き下がられると、突っぱねたこっちが負けたような錯覚に陥る。
「じゃぁ、部室行くから。髪の毛は清水先輩に直してもらいなよね」
君はまた、わかったー。と気の抜けた声で答える。