第1章 【孤爪研磨】特権
彼女との出会いはいつだっただろうか。
クロと公園で遊んでいたら、いつの間にか仲良くなって、
いつの間にか3人でいることが当たり前になった。
クロと彼女は同じ学年で、おれだけ一つ下。
それでも、登下校や遊ぶ時はいつも3人だった。
月日は流れ、クロと彼女が高校に上がった。
中学と高校では時間が合わない事も増え、その一年間は3人でいれる時間は減っていた。
少し寂しかったけど、休みの日は必ず2人で遊びに来てくれた。
おれも高校に上がったら、また前みたいに3人でいれる。そう思っていた。
「トイレ行ってくる」
休日、クロと彼女が遊びに来ていた。
特に何かをするわけでもなく、おれはゲーム、クロはベッドでバレー雑誌、彼女は漫画を読んでいた。
会話がなくたって気にならない。むしろ安心感すら感じていた。
けど、それはきっとおれだけだったのかもしれない。
「お腹空いたな…」
トイレを出て、ふと空腹に気がつく。
2人にコンビニでも行こうと誘いに部屋へ戻った時、部屋の前の廊下にクロの声が漏れていた。
「シッ!研磨に聞こえる!」
クロがまた何かイタズラをしようとしているのだと、閉まり切っていなかった部屋のドアの隙間からそっと部屋を覗いた。
しかし、そこには自分が想像もしていなかった光景があって、ダメだと思っていても、そこから離れることができなかった。
「ちょっと…クロ、、ダメだって…」
「シッ、少しだけだから」
「研磨が…来ちゃ…う」
「大丈夫。あいつトイレでもゲームやってるから、しばらく戻ってこねーよ」
クロが彼女の身体を後ろからぎゅっと抱きしめ、抵抗する彼女の声を遮るように唇を奪っていた。
声にならないような、吐息混じりの彼女の声。
クロの動作一つ一つに身体を反応させ、赤らむ頬。
その姿が美しく、始めて女性として意識してしまったのだ。
「…こっ、これ以上はダメ!」
「ちぇっ、いいとこだったのに…」
その瞬間、我に返った。
覗いていたことがばれないようにそっと階段を降りて、
再びわざと音を立てて階段を登った。
今思えば、2人がそんな関係になっていることくらい気づけたはずなのに。
人が苦手だから、よく観察する。けど2人は苦手じゃなかったから。
なんでこんなに近くにいたのに…。