第49章 【山口 忠】For the first time.
「・・・はぁ」
寝る前、部屋の電気を消して携帯を開く。
慣れた手つきで、ひろかちゃんの電話番号を表示する。
「何やってんだろう…」
俺はすぐに携帯を閉じた。
日課になっていた寝る前の電話。
でも今日からはそれがなくなるんだ。
ふと、机に目をむけると、
あの日渡せなかったキーホルダーが寂しそうに飾られていた。
ひろかちゃんにぴったりのうさぎのキーホルダー。
ふわふわしていて、女の子らしい。
買うのはすごく恥ずかしかったけど、ひろかちゃんの喜んだ笑顔が見たくて。
やばい。また涙が出てきた。
あの日からもう季節が変わった。
「最近、寒いね」
俺は学ランの中に着たセーターの袖を引っ張って、冷たくなった手を閉じ込めた。
本買いたいと言ったツッキーに付き合うために俺たちは書店に入った。
「俺、マンガコーナー見てるね」
ツッキーと別れて、路面側のマンガコーナーに向かった。
「今日、人多いな~」
ふと、混雑した外を眺めた。
「・・・ひろか…ちゃん!?」
俺は咄嗟に手にしていたマンガを元に戻して店を出た。
人ごみをかき分けて、ひろかちゃんの腕を掴んだ。
「ひろかちゃん!!」
振り返った彼女。
「・・・すいません、間違えました」
その人はひろかちゃんじゃなかった。
でも、もしひろかちゃんだったら、俺は何をするつもりだったんだろう。
もう会わない。
そう言ったのに、なんで追いかけたんだろう。
俺は、あ゛ぁ!と声をあげて、頭を掻き毟りしゃがみこんだ。
「なにやってんだろう、俺」
もう何か月も連絡がない。
なのに、どうして俺はひろかちゃんを忘れられないんだ。
寒さを感じれば、彼女が風邪ひいてないかと心配になる。
面白い映画を見たら、彼女に教えてあげたくなる。
バレーが上達したら、彼女に見てもらいたいって思う。
“ねぇ、ひろかちゃん・・・”
いつも呼びかけるけど、彼女はいないんだ。
元彼とよりを戻したのかな。
それとも他の近くにいる誰かと一緒にいるのかな。
あの時の自分の選択は間違っていたのかな。
無理やりでも繋ぎ止めておくべきだったのかな。
“ねぇ、ひろかちゃん・・・”