第49章 【山口 忠】For the first time.
ガチャ
ツッキーが戻って来て、俺の隣に腰かけた。
「・・・はい」
ツッキーが差し出したのはあったかいココアだった。
「ありがとう」
俺は涙を拭って、ふぅふぅとマグカップの煙を揺らし、ゆっくりと口をつけた。
「・・・山口は」
「えっ?」
ツッキーを見ると、プイっと俺から目線を逸らして、マグカップを床に置いた。
「山口は、バカ」
ツッキーの発言に動揺して、俺は何も言葉が出なかった。
ツッキーは一度だけこっちを向いて、またプイっと目をそむけた。
「僕なら、元彼を忘れられない人と付き合えない」
「そっ、それは。俺がひろかちゃんの事好きで、いつか…いつか元彼よりも俺の事好きになってくれればいいかなって思って…」
カタンと音を立てて、床に置いていたマグカップを両手で持ち、口を付けることなく、ツッキーはジッと前を見ていた。
「ましてや、そんなに好きな人を元彼に会わせたり、自分から離すことなんて出来ない。カゴの中に閉じ込めて、僕だけしか見れないようにする」
「えっ、カゴ!?」
「・・・まぁ、冗談だけど」
ククって笑って、今度はココアを一口飲んだ。
「相手を信じて待つってカッコつけすぎ・・・バカじゃない?」
ツッキーはそう言って俺に笑いかけた。
「しかも、カッコつけたのに泣くって、俺本当カッコ悪い」
「まぁね。カッコ悪いね」
「・・・だよね」
「うん」
俺たちは少し笑った。
「俺、ツッキーと友達で本当良かった」
「・・・は?」
「ありがとう、ツッキー」
「うるさい、山口」
アハハ。
まさか、ツッキーがこんな風に言ってくれるなんて思ってもいなかった。でも、そっけない態度の裏側にはこういう優しいツッキーがいることを俺は知っていた。
俺はいつもツッキーに助けてもらってばかりだ。
ありがとう、ツッキー。