第49章 【山口 忠】For the first time.
「・・・ひろか?」
「っ!!」
ひろかちゃんを呼ぶ声が聞こえて振り返ると、そこには一人の男の人が立っていた。
「・・・久しぶりだな」
「うん・・・」
二人の微妙な空気感に俺の胸騒ぎが強くなる。
「新しい彼氏か?」
「違うっ!違うの!!」
「別に隠すことじゃないだろ。・・・じゃぁな」
男はその場を去り、彼女は俯いたままだった。
「・・・誰?」
胸騒ぎの原因くらい大体予想がついた。
「・・・元彼」
「俺はひろかちゃんの彼氏じゃないの?」
「・・・ごめんなさい、私・・・」
ひろかちゃんは何も話さなくなってしまった。
俺たちは映画館を出て、近くの公園へ行った。
「彼とは、あの日、山口くんと出会った日に別れたの」
ひろかちゃんはゆっくりと話し始めた。
「別れたって言うより、待ち合わせの場所に彼は来なかった。何度連絡してもダメだった。どうしてこうなってしまったのか分からないままなの」
ひろかちゃんは俯いた顔を上げて、俺を見た。
「山口くんのこと、本当に好き。でも、ふとした時に彼の顔が浮かんで、もし彼だったらこう言うのかな?とか、こうするのかな?とか考えちゃうんだ」
ごめんなさい。ひろかちゃんはそう謝る。今日で何度目か分からないほど。
「・・・もう、会うのやめよう」
俺はそう切り出した。
「ひろかちゃんの中にはまだ元彼がいる。初めはそれでもいいって思った。元彼との思い出に俺との思い出を上書きしてくれればいいって思ってた。けど、無理だよ。今のひろかちゃんにはそれは無理だって思う。
ちゃんと彼と会って話してきなよ。俺待ってるから。ずっと…」
「ごめんなさい」
ひろかちゃんはまた謝った。