第49章 【山口 忠】For the first time.
ガヤガヤガヤ
日曜日の映画館はすごく混雑していた。
俺はお手洗いを済ませ、ポスターの前で待っていたひろかちゃんの元へ駆け寄った。
「何?何のポスター?」
「・・・前の彼と初めて観た映画の続編…」
ズキン
その映画はシリーズもので、すでに3作目だった。
ひろかちゃんと元彼との長い付き合いを思い知らされる。
俺はひろかちゃんとの映画は今日が初めて。
きっとまだ、元彼との思い出には敵わないんだ。
「ジュース買いに行こっか」
ひろかちゃんはいつもこういう顔をする。
元彼を思い出した時、すごく悲しそうに笑うんだ。
いっそ泣いてくれた方がいい。笑うから、俺は心臓が痛くなるんだ。
初めて出会った日。
ひろかちゃんは泣いていた。
ザーザーと雨が降る中で、傘もささずに泣いていた。
大丈夫ですか?と俺が差していた傘を差し出すと、こっちの方が遠慮なく泣けるからいいと言った。
俺も傘を閉じて泣いた。
初めての試合でサーブをミスったあの日。
本当は泣きたかったあの日に、ひろかちゃんが泣いていたから、俺も一緒に泣いた。
二人で大泣きして、その日から俺たちは会うようになった。
俺がひろかちゃんを好きになるのに、そう時間はかからなかった。初めはずっと落ち込んでいたけど、少しずつ元気になっていった。そんなひろかちゃんを見ていて、俺がひろかちゃんを幸せにしたいって思った。
何度も何度も想いを伝えて、やっとひろかちゃんと付き合えた。
嬉しかった。ひろかちゃんも俺のこと好きになってくれているのは、自分でも感じられたから。
まだ、元彼を引きずっていたとしても、それでもいい。そう思っていた。