第49章 【山口 忠】For the first time.
分かっていた。
ひろかちゃんがまだ元彼を引きずっていることは。
それでもいいから、俺と付き合ってって言ったのは俺。
何度も何度も告白して、やっと彼女からイエスをもらった。
初めての彼女。
初めてデートして、初めて寝る前の電話を日課にして、初めて手を繋いで、初めてキスをした。
俺の初めてはすべてひろかちゃんだった。
けど、彼女はその全てを他の男と経験済みだった。
そんな事を気にしたって仕方がない。
今、ひろかちゃんの隣にいるのは俺だから。
そう自分に言い聞かせていた。
「山口くん、来月の日曜日なんだけど…」
ひろかちゃんがカバンの中から何かを出してきた。
手渡されたのは映画のチケット。
「一緒に行かない?付き合って3か月記念日でしょ?」
「・・・行く!!絶対行く!!」
ひろかちゃんは良かったって笑う。
俺は良かったって安心する。
大丈夫。俺たちはうまくいっている。
約束の日曜日。
「いいんじゃない?気張り過ぎずな感じで」
「ありがとう、ツッキー!」
「まぁ、頑張って」
俺はツッキーに選んでもらった勝負服で出かけた。
ツッキーは「魔の3か月」と脅してきたけど、そんなの関係ない!俺たちは絶好調にラブラブなのだ。
待ち合わせ場所にはすでにひろかちゃんの姿があった。
今日も可愛い。すごく可愛い。
「ひろかちゃん!待った?」
「ううん。…なんか、今日オシャレだね」
「そっ、そうかな?ツッキーに…あっ、こないだ紹介した彼に選んでもらったんだ」
一度だけ、ツッキーにはひろかちゃんを紹介していた。
「あぁ、あのメガネの!」
「そうそう。カッコイイでしょ?ツッキー!」
俺が自分の事の様に胸を張ると、ひろかちゃんが少し考えてから口を開いた。
「私は、山口くんの方がカッコイイって思うけどね」
「えっ・・・いや、それはない!ないない!!」
焦る俺にひろかちゃんはアハハって笑って、右手を出してきた。
「行こう?映画始まっちゃう」
ツッキーよりカッコイイなんてありえない。
けど、ひろかちゃんにそう言ってもらえたことが本当に嬉しかった。