第49章 【山口 忠】For the first time.
今日は、3日。
俺は卓上カレンダーの3の数字の上に書かれたマークを見て、ついついニヤけてしまう。
おこづかい日だからではない。
もっともっと嬉しいことだ。
「おはよー!ツッキー!!」
「…なんか顔ニヤけてる」
「えっ!?そっ、そうかな…」
俺が目線を外すと、ツッキーはちょっと意地悪そうに笑う。
「そんな顔してたら、先輩達に突っ込まれるよ?」
俺は慌てて、両手で顔を叩いた。
それでも顔は緩む。だって今日は・・・。
俺と彼女が出会って3か月目の記念日。
生まれて初めて出来た彼女。
付き合った日からの3か月ではなく、出会った日から3か月。
そんな細かい記念日にまで、心が躍ってしまう俺はもう、恋の病にかかってしまっている。
放課後、部活終わりに俺はいつもの駅に行く。
彼女との待ち合わせの駅だ。
「ひろかちゃん!」
「山口くん!」
可愛い。可愛い。可愛い。
俺の彼女はとっても可愛い。
背が小さくて、クリッとした目、長い髪、白い肌、小さめの唇。
全部が可愛い。
俺たちは駅のベンチでたわいもない話をする。
学校が違う俺たちのデート場所はいつもここだった。
俺はそっと彼女の手を握る。
すると、彼女はニコっと笑って、ぎゅっと握り返してくれる。
幸せすぎて、今の俺の顔は確実にニヤけているだろう。
「ねぇ、今日って何の日だっけ?」
俺はわざとにとぼけて聞く。
彼女が怒って、出会って3か月記念日でしょ!と言ったら、俺は嘘だよって言って、このプレゼントを渡すんだ。
何度もシュミレーションした。完璧だ。そう思った。
「えっ・・・あ・・・」
「ん?」
「前の彼氏との記念日…」
アハハって俺から目を逸らして彼女は悲しそうな顔で笑った。
違う。俺が聞きたかった答えはそれじゃない。
知らないよ、元彼との記念日なんて。
何でそんなこと俺に言うんだよ。
「あっ、そうなんだ」
俺はそう答えるしかなかった。
必死で話の話題を変えたけど、ぎゅっと握っていた手の力が少しずつ抜けていった。