第46章 【黒尾 鉄朗】ヒーロー ~試練~
「研磨ー、ひろかー!」
合宿が終わった次の日、休息のために部活が休みになった。
俺は研磨の家に二人を迎えに行った。
「クロー、ちょっ、ちょっと待って!!」
家の中をバタバタと走り回っているひろか。
それを黙って見ている研磨。
「・・・あいつ何やってんだ?」
俺が研磨の座っていたソファの隣に腰かけ、今の状況を説明しろと言った。
「なんか、今日が楽しみ過ぎて寝れなくて寝坊したらしい」
研磨はスマホをいじりながら、ため息をついていた。
「・・・相変わらずだな」
俺はこの空間が好きだ。
女と言うものはどうしてこうも準備に時間がかかるのか。男には一生理解出来ないだろう。
ただ、呆れながらもひろかを待つ時間を愛おしいと思う。
さっきまでボサボサだった髪の毛がキレイにセットされ、パジャマ姿から、涼しげな今時の女子高生の恰好になる。
ほんのりメイクをしたのか、あどけなかった顔が少し大人っぽくなる。
「ひろかー、そんなに頑張ったってあんま変わんねーぞ!」
俺はそう呼びかけて、ひろかの準備を邪魔する。
「ひどい!せっかくクロとお出かけだからオシャレしてるのにー!!」
遠くの洗面台から聞こえたひろかの言葉に俺は満足してソファに座りなおした。
「・・・クロ、何ニヤニヤしているの?怖い…」
俺が研磨の頭をくしゃっとすると、やめてよ。と手を振り払う。俺は笑って、またひろかの準備音に耳を傾ける。
こんな日常のひと時が今では一番幸せに感じる。
ひろかが引っ越すまで気づきもしなかった。
俺はいつもひろかを独り占めしていた。今はひろかの居る空間ですら大切に思えてくるんだ。
「お待たせー!」
ひろかが準備を終えて、俺たちの前に現れた。
「じゃーん!可愛い??…ねぇ、研磨!見てよー?」
スマホに夢中でひろかを見ない研磨の肩を揺すってひろかは無理やり研磨の視線を自分に向けた。
「えっ・・・あ、うん。可愛い・・・」
取ってつけたような言葉でもひろかは満足そうに微笑んだ。その顔はすごくおばさんに似ていて、本当は皮肉でも言おうと思っていた俺は言葉を飲み込んだ。
「ほら、お前ら行くぞ!」
「はぁーい!」
こうして最後の1日が始まった。