第45章 【黒尾 鉄朗】ヒーロー ~約束~
冬の屋上はやっぱり寒かった。
ただ、ひろかと触れ合っている部分だけが熱を帯びていてた。
「落ち着いたか?」
「うん」
「寒いな」
「でも、クロはあったかい」
屋上で泣きはらしたひろかは少しスッキリした顔をしていた。昔はあんなに泣き虫だったのに、中学の頃からあまり泣かなくなった。
研磨の前で泣くと、両親に伝わってしまうと心配していたんだ。
幼い頃は「泣きすぎたら、体から水分なくなってミイラになるんだぞ!」と脅かして、泣き止まらせた。
中学の頃は「大人になったら、悲しい時に泣かないと膿が出て病気になるんだ」と脅かして、俺の前だけでは泣くようにさせた。
「ねぇ、クロ。一つわがまま言ってもいい?」
「ん?なんだ?」
「・・・今日お父さん帰り遅いんだ。部活終わるまで待ってるから、一緒に帰ってくれない?」
俺はひろかの頭をくしゃっとして、ついでに部活も来いよと誘った。ひろかは嬉しそうにうん。と答えた。
「お父さん、お帰りなさい!」
「おぉ!クロくん!またおっきくなったな!」
親父さんが俺の肩を叩いた。
一緒に夕食を頂いて、親父さんの晩酌に付き合った。
まぁ、俺には麦茶しか出してもらえなかったけど。
男同士の話だから、と親父さんはひろかを追いだした。
「クロくん、ひろかともうキスしたのか?」
「・・・はっ!?」
唐突にそんな質問をしてくるから、相当酔っぱらっているんだと思う。
「付き合ってるんだろ?ひろかと・・・」
「いえ、今はまだ」
「今はまだ・・・か。そんな事言ってると、他の奴に取られるぞ?ひろかは可愛いからな!俺の娘だしな!」
アハハと大きな声で笑って、もう一杯お酒を注いだ。
「ひろかが彼氏連れてきたら、ボコボコにしてやる!」
そう言って、親父さんは俺をバシバシと叩いた。
「痛っ。じゃぁ、なんで吹っ掛けるんですか?」
「いや、どんな男でも面白くない!でも、見知らぬ男よりはクロくんの方がまだマシだ!!」
親父さんの溺愛っぷりは相変わらずだった。
「クロくんは将来の息子候補だからな!」
俺は口元が緩むのを隠そうと、麦茶を口に含んだ。
「クロくん。もしさ・・・。いや、なんでもない」
様子がおかしかった原因は後日判明した。