第45章 【黒尾 鉄朗】ヒーロー ~約束~
今日の昼休みくらいには学校に行くとひろかから連絡があり、俺は授業に集中することが出来ないでいた。
「黒尾!この問題解け!」
先生からお叱りを受け、俺は黒板に書かれた数式を解く。
「せんせー。これでどーっスか?」
「……戻ってよし」
勉強は好きじゃないけど、できないわけじゃ無い。特に理系は得意だった。
授業を聞いていなかった俺に簡単に問題を解かれて悔しそうにしている先生を横目に俺は席に戻った。
キーンコーンカーンコーン
俺はチャイムと同時に教室を出た。
隣のクラスはまだ授業中。
仕方ないので、廊下に立ってあいつを待った。
「あれ?クロ?…おはよう!」
数分後、雑音に紛れてひろかの声が聞こえた。
「おぅ!久しぶりだな」
たった数日なのに、数ヶ月ぶりに感じてしまう。
それくらい俺たちは毎日一緒にいたんだ。
「なぁ、ちょっと付き合えよ!」
俺は、ひろかを屋上へ連れて行った。
冬の寒さを感じる屋上には数人の同級生がいた。
「おぅ、黒尾!」
「よう!なぁ、お前らちょっとここ俺らに譲ってくんね?」
「なになに~?いやらしい事すんのかぁ~」
「まぁな!・・・なんてな。今度パン奢っから!」
俺は同級生たちにパンを奢る代わりに、屋上から退散してもらう契約を結んだ。
みんなが退散した後で、俺は一番奥、手すりが直角に交差している所まで歩いた。
「・・・寒いな」
そう言うとひろかは俺の横に立って空を見上げた。
「ママ・・・天国行っちゃった」
風がビューっと吹いて、ひろかが乱れるスカートを押さえた。
「お前、泣いてないんだろ?」
「私が泣いたら、お父さん心配しちゃうでしょ?」
そう言ってひろかは微笑んだ。
「泣いてあげないとおばさん寂しいと思うぞ?」
「・・・・」
「俺しか見てねぇから。ちゃんと泣け」
俺はひろかを抱き寄せた。
「…ママ。ママ…、一人にしないでよ…」
ひろかは俺のセーターの裾を握った。
セーターからYシャツへ水分が浸透し、俺の胸を湿らした。
「俺らがいるだろ?今までと変わらずずっと傍にいる」
「・・・クロ、ありがとう」
そう言って、ひろかは俺の背中に手を回した。