第44章 【澤村 大地】ヒーロー ~スタートライン~
「お父さん、ごめんなさい。私行かないから!ママもいなくなって、私までいなくなったら、お父さん寂しいでしょ?私ここに残るから!だから…だから…」
また泣き出すひろかの手を握って、お父さんが口を開いた。
「さっきはすまなかった。お父さんはな、嬉しいんだ」
「・・・えっ?」
「ひろかがここまで成長したのかと思うと本当に嬉しい。他の子達よりも寂しい想いをさせてしまったのに、こんなに優しくいい子に育ってくれた」
ダメだな、年を取ると涙腺が緩む。と涙を拭った。
「ひろかも親になったら分かる。子供の成長は嬉しくて寂しいものなんだ。でもな、寂しいから嬉しいんだ。これは悲しくて泣いているんじゃないぞ?うれし泣きだ!」
そう言ってほほ笑んだお父さんを見て、俺まで涙が出そうになる。泣きつかれたひろかはお父さんに連れられて部屋へ行った。
「大地くん、悪かったね。今日は本当に助かったよ」
「・・・いえ。でもなんで俺の名前を…」
そう言うとお父さんはハハハと笑った。
「ひろかが、いつも楽しそうに君のことを家で話していたからね。大地がね~ってさ」
そう言って、暖かいミルクを出してくれた。
「大地くんは…その、ひろかと付き合っているのかい?」
「あっ、いえ!ただの同級生です」
「そっか。今日、ひろかの方から大地くんに助けを求めたんだろ?だからてっきりひろかにも彼氏が出来たんだと。少し安心っ」
そう言って照れ笑いをした。
「違ったら、申し訳ないんだけど…、うちの娘のこと好いてくれているのかい?」
「・・・はい」
「そうか。・・・ありがとう」
俺はゆっくりマグカップに口を付けた。
「また、泣いちゃう日が来るのかな。ひろかさんを僕に下さい的なの嫌だな・・・」
そう言って落ち込むお父さんを見て、俺は笑ってしまった。
「大地くんも父親になったら俺の気持ち、分かるぞ」
ちょっと拗ねた顔がひろかとそっくりで驚いた。
「大地くん、あの子の事お願いします。すぐに自分で抱え込む所ある子だから、どうかそばで支えて欲しい…」
急に俺に頭を下げるから、焦ってしまう。
「そんな、俺が出来ることはなんだってやります!」
俺も慌てて頭を下げた。
その後二人で笑い合った。