第38章 【東峰 旭】もう一度だけ・・・
朝、起きて携帯を見るとひろかから着信が1件。
そのあとにメールが届いていて、サークルのイベント準備に追われていたと謝罪の内容になっていた。
別に謝ってほしいわけじゃない。
ただ、声が聞きたかった。
そして、再確認したかったんだ。
俺はひろかが好きなんだって。
「イベント楽しかったよ~」
連休最終日の夜、ひろかから電話がかかってきた。
聞きたかったはずのひろかの声。
なのに、楽しそうにしているひろかの声に気が滅入ってしまう。
「そうなんだ、よかったな」
俺は心にもない言葉を発した。
明らかに機嫌が悪い声で、自分の気持ちを察してくれと言わんばかりに。
「・・・旭、やっぱり怒ってるでしょ?」
「・・・怒ってない」
「怒ってるじゃん!」
離れ離れになって初めて喧嘩をした。
“私なら、どんな事があっても彼氏に会いに行くけどな”
先輩の言葉が頭を過ぎる。
俺と会うことよりも、サークルが大事なのか?
ひろかは俺に会えなくて寂しくないのか?
俺が…他の人の所に行ってもいいのか?
「・・・もう俺たちダメかもな」
俺の口から出たのはそんな言葉だった。
「待ってよ!どうしてそうなるの?」
「俺たち、生活のリズムが違い過ぎる。俺はもう社会人なんだ。学生とは違うんだ…」
俺の言葉にひろかは何も言ってこない。
「それに、職場の人から告白された。近くにいて、同じ社会人だし、ひろかよりもずっと生活リズムが合うと思う。いらない事で不安に思ったりもしないだろうし」
「・・・旭はその人の事、好きなの?」
違う。好きなのはひろかだ。好きだからこそ辛くて、逃げ出したいんだ。
俺はしばらく無言を貫き、ごめんと言って電話を切った。
それから何度も着信があったけど、俺は携帯の電源を切ってしまった。