第38章 【東峰 旭】もう一度だけ・・・
「旭~!」
東京の大学に進学したひろかがお盆に宮城に帰ってきた。
新幹線から降りてきたひろかは大きなキャリーケースを力いっぱい引っ張りながら俺の元へ駆け寄ってくる。
「ただいま」
「おかえり」
俺はひろかの荷物を持って、車のトランクに積んだ。
「なんか、旭が運転してると大人って感じがする」
助手席に乗ったひろかが嬉しそうにこっちを見る。
「時間まだ大丈夫か?」
「・・・実家には明日の朝にこっちに着くって嘘ついちゃった」
その言葉はイコール今日は俺の家にお泊りするという事。
俺は緩んでしまう口元を隠しながら、車を発進させた。
俺の部屋に着き、荷物を玄関に置いたまま、
俺はひろかを抱きしめ、キスをした。
会えなかった時間を取り戻すかのように何度も何度もキスをした。
折れてしまいそうなひろかの身体を今日は優しく扱うことは出来そうにない。
「旭、好きだよ」
ひろかがそんなことを言うから、俺たちは夕食も食べずに愛し合い、朝を迎えた。
「おはよう、旭」
目が覚めると、キッチンにはひろかが立っていて、味噌汁のいい匂いがした。
「早くシャワー浴びておいで?」
俺のぶかぶかのTシャツを着て、裾からはふとももの大半が見えている。そんな格好で起こすのは反則だ。
俺はキッチンに立つひろかを後ろから抱きしめる。
「あっ、旭!?遅れちゃうよ!?」
「・・・大丈夫」
俺はコンロの火を消して、ひろかをもう一度布団へ連れて行った。
「東峰、なんか今日元気だな」
直属の上司が俺に声をかけてきた。
「いや・・・まぁ」
女か?そうからかわれるもの嫌な気はしなかった。
今日、仕事が終わって家に帰ったら、一度実家に顔を出したひろかが俺の部屋で待っていてくれる。
それだけで自分の仕事効率がこんなにも上がるのかと少し呆れるくらいだった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
俺はぎゅっとひろかを抱きしめる。
「新婚みたいだな」
俺がそう言うと、ひろかはふふふ。と笑った。
幸せだ。毎日こうだったらいいのに。
そう思った。