第34章 【岩泉 一】私を旅館に連れてって
「ひろかちゃーん!」
次の日、廊下で声を掛けてきたのは及川くんだった。
「ひろかちゃんは仮装何着るのー?」
「私は裏方だよ」
そう言うと及川くんは、廊下にしゃがみこんだ。
「ひろかちゃんがいないならカフェ行く意味ないじゃーん!ミス青城のくせに!表舞台に出ろ!出ろー!」
おもちゃを買ってもらえなくてだだをこねている子供の様に及川くんは騒いでいた。
「ミス青城って、1年の時の話でしょ?それに私が居たからって変わんないよ」
「1年でミス青城になった子は過去ひろかちゃんだけなんだよ!それに他の学校の友達にひろかちゃんが仮装するって宣伝しちゃったよ」
ぶーと唇を尖らせてしゃがんだまま私を見上げる及川くん。
彼に目線を合わせる様に、私もしゃがみ込む。
「今年は3-5が優勝かと思ってたけど、べつの組かな…たしか2-1がすごいらしいって聞いたし」
“今年こそは取りてぇな、優勝”
私ははじめの言葉を思い返す。
「ねぇ…本当に私がウエイターやったら変わる?優勝出来るかな?」
及川くんが私の両手を掴んで急に立ちあがる。
その後数分間、及川くんから私が仮装したら絶対優勝出来る!と力説されて、私ははじめに内緒でウエイターをやることを決めた。