第32章 【月島 蛍】君の恋のメゾット
「ほら、早く上がれよー」
部室で澤村キャプテンが皆を急かす。
僕は制服に着替えて、一足先に部室を出た。
そこにはすでに彼女が日向を待っている。
「翔陽まだっぽい?」
「あぁ、西谷さんとなんか騒いでた」
僕の言葉に、やっぱり。とため息をつく彼女。
「おいて行こう」
そう言って僕と一緒に校門を出た。
「…で、結局なんで日向なわけ?」
「私、昔から勉強もスポーツも人並み以上には出来たの。でも、これだけは誰にも負けない!って物はなかったんだ。だから、翔陽に出会った時自分と真逆でなんか…すごい!って思っちゃったの。
まぁ…翔陽みたいになりたいかって言われたらなりたくないけどね」
僕も無理。と言うと彼女はだよね。と笑った。
「勉強も出来ないし、背も高くないし、子供っぽいし…私が好きな月島みたいなタイプとは真逆だったけど、付き合っていくうちに、私はこういう人の方が合うんだって思ったの」
僕は肩からずり落ちたカバンを持ち直した。
「君と日向が合うって、良く分かんないんですけど」
彼女はなんて説明したら良いか頭を悩ませていた。
「自分で言うのもなんだけど、翔陽は私を好きだって気持ちが言葉にしなくても態度で分かっちゃうでしょ?」
「まぁ、言葉でも言ってるけどね。しかも人前で。本当、理解不能」
僕の言葉に大きく首を縦に振って、彼女は言う。
「月島は絶対簡単には好きって言わないタイプだよね!…私さ、自分のこと好き?とか聞けないの。だから、月島みたいな人だと不安になって、でも素直に聞けなくて…の悪循環になるんだよね」
「じゃぁ、僕が毎日好きだって伝えたら、日向より僕を選ぶわけ?」
彼女は驚いた顔で僕を見上げて、少ししてからまた前を見た。
「ふふ。月島はそんなキャラじゃないでしょ。それに、私のことなんて好きじゃないでしょ?からかわないでよ」