第29章 【菅原 孝支】私の親友は清水潔子
「ひろか、遅いからみんな帰っちゃった」
教室に戻ると潔子が1人で待っていた。
「あっ…ごめん」
私は潔子から目を逸らして、ゴミ箱を元の位置に戻した。
「・・・なんかあった?」
潔子は私の顔を覗き込んでそう言った。
「きっ…潔子はいいよね。美人でモテてて…」
「・・・?ひろか?」
私はこみ上げてくる涙を必死でこらえた。
「潔子にはわかんないよ、私の気持ちなんかっ!!」
私は教室を出て、走った。少しでも教室から離れたかった。
潔子が悪いわけじゃない。
自分の好きな人が潔子を好きになるなんて今までにだってあったこと。
いつも私は潔子の引き立て役だった。
それでも良かった。
潔子はいつも凛としていて、私の憧れだったから。
私のバカみたいな話にも耳を傾けてくれた。
口下手なのに、私にはいつも素直な気持ちを伝えてくれた。
私は急いで教室に戻った。
でも教室にはもう潔子は居なかった。
「ごめん、潔子。ごめん…」
私は涙を止めることが出来なかった。
「・・・ひろか?」
振り返るとそこには潔子の姿があった。
「よかった。追いかけたんだけど、見失っちゃって…」
いつもキレイに整えられている潔子の髪がボサボサになっていて、必死で私を追いかけてくれたんだと分かった。
私は潔子に抱き着いて、何度もごめんねと言った。
「私好きな人いるの。でももうやめる。この気持ちやめる…」
私は潔子に抱き着いたままそう告げた。
すると、潔子はぐっと私は引き離して私の顔を見る。
「私が一番ひろかのいい所知ってる。だから…ひろかから好意を持たれて嫌な気持ちになる人なんていない」
口下手な潔子が少し涙目になって必死に伝えてくれた。
ありがとう。と私が泣き出すと、潔子はもう一回ぎゅっと抱きしめてくれた。
「じゃぁ、私部活行くね」
その後、潔子は部活に向かった。
「はぁ…妹のお迎えがないと私って何もすることないんだな…」
誰もいない教室から外を見た。
運動部が走っていたり、吹奏楽の練習の音が聞こえてきた。
妹さえいなければ、私はこんな風に青春を謳歌することが出来た。
そんな汚い気持ちがこみ上げてきた。
「私って最低…。こんなんだから、菅原くんにも好かれないんだよ」
私は自分の愚かさに笑いながら泣いた。