第28章 【夜久 衛輔】理想のキス
「「お疲れ様でしたー」」
部活終わり、いつもはひろかちゃんがクロ達を待っているのに今日はどこにもいなかった。
「夜久~?第一体育館からモップ持ってきてくんね?」
「おっおぅ」
俺はクロにそう言われて第一体育館へ向かった。
第一体育館に行くには石段を下って行かなくてはならない。
タッタッタッ
「・・・っ!?ひろか…ちゃん?」
俺の声に気が付いたのか、石段に座っていた彼女が振り返った。
「夜久さん…」
ひろかちゃんはスカートを掃って、一段ずつゆっくりと俺の方に向かってきた。
俺の一段下で止まって、俺を見上げて口を開く。
「夜久さん…私、フラれたんですか?」
「えっ?」
「まだ告白もしてないのに、夜久さんにフラれたんですか?」
彼女の言う意味が分からなかった。
「好きな人から、他の男の人とお似合いって言われるって、私に興味がないってことですよね?」
ハッとした。
俺が今日校庭でひろかちゃんに言った言葉だ。
「えっ?じゃぁ…ひろかちゃんが好きなのって…」
俺の発言に一気に彼女の顔が赤くなるのが分かる。
「夜久さんひどいです…。部活も入ってないのにクロ達と登下校してたのは夜久さんに会いたかったから。
夜久さんの好きなパンを知っていたのは、いつも夜久さんをこっそり見つめていたから…。それに…」
今にも涙がこぼれ出しそうな目で俺を見上げる彼女を俺はぎゅっと抱きしめた。
「夜・・・久さん?」
「俺も好きだよ。ずっとずっと好きだった」
ひろかちゃんはゆっくり俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「でも…俺、ひろかちゃんの理想のキス出来ないよ?」
そう言うと彼女は俺の腕の中でくすくす笑いながら、ゆっくり抱きしめていた腕を離した。
「夜久さん?あれ、ちゃんと見てましたか?」
「えっ!?」
「あれ、階段でキスするんですよ?」
そう言って、彼女は背伸びをして目を閉じた。
ちゅっ
俺は少し屈んでひろかちゃんの唇に触れた。
照れてはにかむ彼女を見降ろすのは何という絶景だろうか。
「ひろかちゃん…」
俺はもう一度彼女にキスをしようと顔を近づけた。