第28章 【夜久 衛輔】理想のキス
「夜久さ~ん!」
彼女の声はすぐに分かる。
俺が振り向くと、大きく手を振って笑うひろかちゃんがいる。
購買前で合流して、一緒に列に並んだ。
いつもニコニコしていて、人懐っこい性格のひろかちゃんに初めて会ったときから、俺は恋をしていた。
「おっ、ひろかじゃん」
俺たちが後ろを振り返ると、クロが立っていた。
クロとひろかちゃんは本当に仲良くて、いつもじゃれ合っていた。そんな2人を羨ましいと思う。
「・・・クロ?なんかついてるよ?」
ひろかちゃんが背伸びをしてクロの頭に手を伸ばす。
それに合わせてクロが少し前かがみになった。
そんな2人とこないだ見たマンガのシーンがダブった。
「俺、ちょっと・・・」
俺はその場にいるのが辛くなって、並んでいた列から外れた。
「夜久・・・さん?」
俺はお昼も食べずに校庭のベンチに座っていた。
そこに聞きなれた彼女の声が聞こえる。
「どうかしたんですか?」
そう言ってひろかちゃんは俺の横に座った。
「良かったらどうぞ」
ひろかちゃんは購買で買ったパンを差し出す。
「夜久さん、このパン好きですよね?」
「えっ…?なんで知ってるの?」
ふふふと笑って、ひろかちゃんはパンを頬張っていた。
「本当、クロと仲いいよな」
「そうですか?まぁ、小さい頃から一緒ですしね」
ひろかちゃんは少し不服そうにそう言った。
「なんか…お似合いだって思うよ。クロとひろかちゃん」
「えっ・・・?」
俺はそう言って、教室に戻った。
何を言ってるんだろう。
わざわざそんなこと言うことなかったのに。
でも、クロとひろかちゃんを見ていると、
告白もしてないのにフラれた感じがしたんだ。