第28章 【夜久 衛輔】理想のキス
「あっ、夜久さ~ん!」
朝練のため、他の生徒達より少し早めに登校する。
俺は基本一番に部室前に着く。
でもあえて鍵の管理を申し出ない。
「ひろかちゃん、おはよう」
彼女はクロと研磨の幼馴染。
俺の1つ下の後輩だった。
彼女は特に部活には入ってなかったが、幼馴染と共に登校していた。
彼女に会うために、あえて部室には入らずに鍵を待つ。
それが鍵の管理を申し出ない理由だった。
「「お疲れ様でした」」
部活が終わり、部室を出るとそこにはひろかちゃんが何かを読んで待っていた。
「ひろかちゃん?何読んでるの?」
「あぁ、夜久さん!お疲れ様です!」
彼女はそう言って、読んでいた本を隠した。
「ひろか~、また少女マンガかよ」
「クロ!!いいじゃん、別に~」
クロにバカにされて、少し拗ねる彼女はとても可愛かった。
「何?どんな話なの?」
俺が覗き込むと、ひろかちゃんは恥ずかしそうにマンガを手渡した。
そのマンガの内容は、まぁ良くある少女マンガ。
片思いしていた男の子と上手くいってハッピーエンド。
ごくごく普通の物語だった。
「ひろかは、最後のシーンが好きなんだよ…」
後から来た研磨が言う。
俺はペラペラとページをめくり、最後のページを開いた。
そこには主人公の女の子が背伸びをして、大好きな男の子にキスをする描写だった。
「なんで、そのシーンが好きって知ってるの!?」
「いっつもそのページ見てるから分かる…」
研磨と彼女が言い合っているのをクロがニヤニヤして見ていた。
「ひろか、俺がキスしてやろうか?」
そうやって、クロがいつものように彼女をからかう。
「夜久さ~ん、クロが変態です!助けてください!」
彼女は俺の後ろに隠れて、クロに舌を出していた。
俺と身長があまり変わらないひろかちゃん。
俺はどう頑張っても彼女の理想のキスをしてあげることは出来ない。