第26章 【月島 蛍】バカじゃないの?
食事を済ませた後、私は先程のお詫びを兼ねて飲み物をご馳走することにした。
ふと、近くにいたカップルが一つのジュースを可愛いストロー2本で飲んでいるのが見えた。
これは憧れのシチュエーション!
そう思って、私は蛍に提案したのだが…。
「バカじゃないの?」
蛍が冷めた目で見る。
普段からそうだった。
下校時も、絶対に手なんて繋いでくれない。
蛍はいつもポケットに手を入れたまま。
私が無理やり、蛍の腕と脇腹の隙間に自分の腕をねじ込んで腕を組むくらい。
蛍は明らかに人前でベタベタするタイプじゃないって分かってる。だから我慢してた。
だからこそ、少し遠くの海に来たのに…。
知り合いもそうそういない場所なら少しはカップルらしいことが出来るんじゃないかって思ってた。
蛍は本当に私のこと好きなのかな。
そう言えば、付き合った時も好きって言ってもらってない。
「月島くん、好きです!」
「・・・で?」
「えっ…あの…付き合って下さい!」
「・・・別にいいけど」
そうだ。
初めから蛍は私のことなんて好きじゃないんだ。
“彼女面してるけど、彼は全然その気ない的な?”
さっきの女の人達が言ってた言葉が頭を過ぎる。
「わたし・・・ちょっと泳いでくる」
私は蛍をお店に残して一人海に出た。
キャハハハ
海では楽しそうな笑い声が聞こえる。
本当は部活でなかなか会えない蛍と夏の思い出を作りたかっただけなのに。
私、何やってるんだろう…。
そう思って私は後ろを振り返る。
「・・・来るはずないか」
もちろん、蛍は追って来たりしない。
「私ばっかり好きでバカみたい…」
私は、そのまま一人で海を散歩した。