第4章 【岩泉一】空回りの恋
「ったく、及川の野郎。ふざけんな」
昼休み、部活のミーティングする予定だったが、
いつものファンの女の子に囲まれて、強制終了してしまったのだ。
中庭に出た時に、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「そんなんじゃないです!」
ひろかだった。
「じゃぁ、なんで及川くんといつも一緒にいるわけ?」
「幼馴染だか知らないけど、あんた邪魔なのよね!」
「あれか!幼馴染って立場利用して、及川くんに取り入ってるんでしょ!」
あれはたぶん3年の女子。
及川ファンの女だったはず。
「もし先輩方が及川先輩を好きなら、直接及川先輩に伝えればいいじゃないですか!」
「は?何生意気言ってんのよ!」
「もしふられて、気まずくなったらどーするのよ!」
ドンッとひろかの肩を後ろに押しやり、睨みつけていた。
「及川先輩は…徹ちゃんはそんなことしないっ!!」
それでも食い下がらないひろかに女子軍団達が腕を振り上げた。
バシッ!
「痛ってーな!何すんだてめぇーら! 」
「ゲッ、岩泉…」
我に返ったのか、女達はオドオドし始めた。
「2度とひろかに手出すな、わかったか?」
女達は黙ってて首を縦に降り、
走って逃げて行った。
「大丈夫か?」
「はじめちゃんこそっ!血出てるよ」
慌てて、ハンカチを取り出したひろかはそっと俺の唇を押さえてくれた。
「なぁ…こういう事よくあるのか?」
そうだね。と苦笑いしながら手当を続けるひろか。
「でも、慣れてるから平気だよ!」
俺に心配かけまいと精一杯の笑顔を見せた。
「はじめちゃん、ありがとう。かばってくれて」
あぁ。
俺はひろかの顔を見ずに答えた。
「教室戻ろっか!」
そう言って歩き出したひろかの手を掴んだ。
「ひろか。もし、あれだったらさ。
俺と付き合ってることにしないか?」
「えっ?!」
「いや、その、あれだ。フリだぞ?本当に付き合うとかじゃないぞ?
俺と付き合ってるって事にすれば、及川のファンの女達からの攻撃も少しはマシになるだろうし」
俺の提案に目を丸くして、
固まったひろか。
そして、少しの沈黙が破られた。
「…それだけは絶対嫌。」
そう言うと、ひろかは俺の手を振り払い去って行った。