第25章 【菅原 孝支】ファンファーレ
「ごめんね、引き止めちゃって…」
あの後、俺は佐藤を待って一緒に帰ることになった。
「佐藤はすごいな。なんかカッコよかったよ」
何言ってるの…と少し照れて、頬をかいたその手には俺の手袋がはめられていた。
「それ、使ってくれてんだ」
「あっ、ごめん…愛用してた」
ぺろっと舌を出して申し訳なさそうに手袋を返してきた。
「いいよ。それ佐藤にやるよ」
「えっ・・・でも」
「その代り、毎朝演奏聞かせてよ」
佐藤はやった!と笑ってまた手袋をはめた。
「こないだ、すげぇ1年セッターが入ってきたって言ったじゃん?
確実に俺よりも技術は高くてさ。
頼もしいと同時にすげぇ複雑な気持ちだったんだよ」
佐藤は黙って俺の話を聞いてくれた。
「けど、今日の佐藤の言葉で俺のモヤモヤしてた気持ちがどっかいっちゃったんだよな」
「えっ?私の言葉?」
「そう…自分の出番、自分の出す音に誇りを持って!ってやつ」
俺がそう言うと、止めてー!と俺の二の腕をポンポン叩いた。
「アハハ。俺頑張るよ。
自分の出番、自分のプレイに誇りを持つ」
「・・・うん」
「それじゃぁ、また明日」
佐藤は俺に胸元で小さく手を振って
駅のホームへ去って行った。
“また明日”この言葉に名残り惜しさを感じた。
俺は佐藤を好きなんだな…。
その時、自分の佐藤への想いが確信に変わったんだ。