第2章 再会
パーティーが始まっても「彼」は私を離そうとしなかった。左腕は私の腰に回されたままだ。傍から見れば仲睦まじいカップルに見えるだろう。だが私達はそんな甘い関係ではない。少なくとも私は。
一通り挨拶を終えると、「彼」が話しかけてきた。
「あまり顔色が良くないな。鎮痛剤は効かなかったのかい?」
「いえ、ご心配には及びません。鎮痛剤は効いています。少し疲れただけですから」
「今日はもう帰ろう。無理をする必要はない」
「…わかりました」
明日も別のパーティーがある。参加者は今日とほぼ同じだ。だから問題ないと判断したのだろう。少し主催者に申し訳ないが、ありがたい申し出だったので「彼」に従って帰ることにした。
帰りの車の中で「彼」は言った。
「明日は僕も練習がある。部屋でゆっくりするといい。ああ、それとも練習の見学に来るかい?歓迎するよ」
一見私の意思を尊重しているように見えるが、こういう場合はほぼ、「彼」の中では決定事項だ。明日は見学に行かなければならない。それでも細やかに抵抗してみる。
「いきなり見学にお邪魔する訳にはいきません。ご迷惑をおかけするだけですから」
「迷惑にはならない。潮里が来てくれれば皆の士気も上がるだろう。もちろん僕もだが」
「…それでは見学させていただきます」
反論は許さないという目をした「彼」にこれ以上逆らうのは得策ではないということを私は知っている。大人しく引き下がる方がいい。それに“男子”バスケ部なら嫉妬の目で見られることはないだろう。好奇の目では見られるかもしれないが。
「赤司征十郎の婚約者」という立場は、嫉妬と羨望と好奇の目を生む。好奇の目は放っておいても平気だが、嫉妬と羨望の目は厄介だ。様々なトラブルの引き金になる。こちらの預かり知らぬ所で勝手な恨みを買っているのだと思うとうんざりだ。
「心配しなくてもマネージャーに女子はいない。潮里が気に病むことは何も無い」
顔に出ていたのだろうか。まるで心を読んだかのようなタイミングで「彼」は言う。
「潮里は僕だけを見ていればいい。僕だけを、だ」
だが続けられたのは子供じみた独占欲。「彼」は私の何をそんなに気に入っているのだろう。私は駒としての価値がそれほど高いという訳ではない。「彼」の執着心がどこから来るものなのか、私にはわからない。