第3章 帰京
「でもちょっと意外でした。おばさまが降ろして下さったのは」
「ああ、僕も不思議に思って聞いてみたんだ。どうやら母は小さい頃木登りも平気なおてんばだったらしい」
「え?あのおばさまが⁈」
私の中では淑やかで嫋やかな、いかにも良家の出身というイメージしかない人だったが意外な一面も持ち合わせていたようだ。だが、自らの経験に基づいたものであるならば、あの的確な指示も納得がいく。
「ああ見えて母はスポーツは得意な人だったからな。僕にバスケを勧めてくれたのも母だった」
幼い頃を思い出すかのように少し遠い目をしていた「彼」が、ふと視線を落とす。つられて私も視線を落とす。視線の先には供えた花束があった。何を思ってか、「彼」は黙ってじっと花束を見つめていた。
どれくらいそうしていただろうか。蝉時雨の中、「彼」は私の方を向いた。
「そのワンピースは気に入ってもらえたようだね。良く似合ってるよ」
唐突に変わった話題に私が戸惑っていると、「彼」は目を細めて言った。
「実はもう一つプレゼントがあったんだ。これだけはどうしても直接渡したくてね」
「彼」の掌の上に、いつの間にか小さな箱があった。微かに嫌な予感がする。果たして、その予感は的中した。