第3章 帰京
「ご無沙汰しております、おばさま。何の手土産も無しにお邪魔して申し訳ありません。こちらは相変わらずですが皆元気にやっています」
そこまで言うと「彼」が水を汲んで戻ってきた。
「何をしていた、潮里」
「おばさまにご挨拶を。ここへは随分前に一度お邪魔したきりですから」
「そうか……ありがとう」
「彼」の口から漏れた意外な言葉に私は目を見張る。「彼」は苦笑しながら墓石に水をかけ出した。
「潮里が来てくれたんだ。母も喜んでいるだろう」
そう呟くように言うと、私の手から花束を取り、墓前に供えた。どこから出したのか、線香に火をつけてその内の何本かを私に手渡す。線香の香りが辺りを包む。ほんのりとラベンダーの香りがして、私の記憶の中にある故人の思い出と線香の香りが重なった。
「ラベンダーの香り、お好きでしたものね、おばさまは」
「彼」は私の言葉には何も反応せずただ黙って両手を合わせていた。しばらくして私へと場所を譲る。私は線香を供えると静かに両手を合わせた。