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鳥になった少年の唄

第3章 帰京


電車を降りると、「彼」は花屋に寄った。そこで選んだ花を見て、今日の行先と「彼」の意図に気づく。目的地はすぐそこだ。私は黙って「彼」の後についていった。

しばらく歩くと墓地の入口が見えてきた。「彼」は私に花束を渡すと、真っ直ぐに前を見据えた。この墓地には赤司家の墓がある。「彼」の母親もそこに眠っているのだ。「彼」は私を連れて母親に会いに来た。「彼」の選んだ花は、今は亡き母の好きだった花ばかりだ。まだ入れ替わる前の“彼”にとっては数少ない理解者であり支えでもあった人。入れ替わった「彼」が母親のことをどう思っているのかはっきりと聞いたことはないが、どうやら「彼」にとっても母親は特別らしい。妙に感傷的だったのもその為だろう。私が黙っていると、薄く笑って手を差し伸べてきた。

「行こうか、潮里」

私は日傘を閉じるとその手を取る。遮るものの無い、焼け付くような日差しの中を二人並んで歩いて行く。墓地は幾つかの区画に分かれており、赤司家の墓はその最奥の区画にある。二人共無言のまま、墓の前までやって来た。

「水を汲んでくる」

「彼」はそう言って私を置いて歩き出した。見れば真新しい花が供えてある。親戚の誰かが供えたのだろう。掃除もしてあるようだ。縁石に荷物を置いて、正面に立つ。ここへ来ることがわかっていたなら線香や蝋燭を用意して来たのに。そんなことを思いながら墓石へ向けて話しかけた。
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