第3章 帰京
駅へと着くとICカードを渡された。通学に使っているものと同じ種類だ。
「使い方はわかるね?」
「はい。それくらいは知っています」
「ならいい。なくさないように」
そう言って先を行く「彼」の後をついて行く。お盆休みということもあり電車は空いていた。隣に座る「彼」は窓の外を見ている。東京の景色が懐かしいのだろうか。そんな感傷的になるような人でもないのに。
「ほんのしばらくの間だと言うのにどんどん変わっていくんだな」
ふと「彼」が呟いた。視線は窓の外に向けたままだ。
「この辺りは特に再開発が進められているところですから」
私も窓の外を見やりながら言うと、「彼」は視線を落とした。そして私の手を握る。
「街も人も時が経てば変わる。だが君は変わらないでいてくれ」
どうしたというのだろう。妙に感傷的なことを言うなんて。どこか具合でも悪いのだろうか。怪訝そうな視線を向けると自嘲気味な笑顔が返ってきた。
「どうなさったんですか?征十郎さん」
「いや、なんでもない。僕らしくもないな、忘れてくれ」
何かが「彼」を感傷的にさせているらしい。その何かがわかるまでにそれほど時間はかからなかった。