第1章 プロローグ
…またこの夢か。中学時代のある時からよく見るようになった夢。夢の中の少年は私のよく知る人物だ。彼の名は赤司征十郎。親同士が決めた私の婚約者だ。現在は京都の洛山高校へ通っている。私は都内のエスカレーター式の女子校へ通っているので彼とは中学卒業の少し前に会ったきりだ。今の彼を、私は知らない。
親同士が決めた仲だからと言って彼を嫌っている訳ではない。だが、恋焦がれている訳でもない。ただ婚約者という事実を受け入れているだけだ。
名家と呼ばれる家柄の家に生まれてきたので、自分が駒の一つだという自覚はあった。家の事情がわかる年頃になると、彼との関係も受け入れることにした。まあまあ悪くはないと思っていたくらいだ。ある時までは。
何があったのか私は知らないが、ある日を境に彼は変わった。いや、正確には入れ替わった。
彼の中にはもう一人の「彼」がいたのだ。