第2章 再会
帰りの車の中で「彼」が声をかけてきた。
「気分が優れないようだね、潮里」
「少し疲れただけですからご心配なく」
「それだけだとは思えないが」
「どういうことですか?」
「浜津のご当主に会ってからずっと浮かない顔をしているよ」
「彼」のことだから私があの二人を苦手としていることぐらいお見通しだろう。
「本当に疲れただけです」
そう短く言って会話を打ち切ろうとすると、「彼」は何故か目を細めて言った。
「潮里は素直じゃないな。まあいい。そういうことにしておいてあげるよ」
「彼」は一体どんな答えを期待していたのだろう。考えたところでわかるはずもないので、考えるのをやめた。
小さくため息をついて窓の外を見ていると、いきなり「彼」の腕が伸びてきた。肩を抱かれ引き寄せられる。突然のことに驚いて声を失っていると、「彼」は運転手に指示を出して本来行くべき方向とは逆に車を走らせた。
「…征十郎さん?」
やっと出た声で理由を尋ねるように「彼」の名を呼ぶ。肩を抱く腕に力が込められた。
「もう少しだけこうしていたいんだ。明日には君は帰ってしまうからね」
切な気に笑う表情に違和感を覚えた。もしかしたら“彼”なのかもしれない。私は拒むことも身を寄せることもせず、ただ黙って“彼”を見ていた。“彼”はもう片方の手で私の髪に触れると、そのまま滑らせるように顎先へと移動させた。
「潮里…」
小さく私の名を呼ぶと、私の顔を引き寄せる。我知らず目を閉じていた。
一瞬の躊躇いの後、唇に温かいものが重なった。