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出会えた奇跡

第1章 暗闇の光


何故その名前を知っているのかと驚愕した
私たち一族の名は裏世界でしか知られないもの
どうして表側の人間がこの事実を知るのか
ただ指先から震え出す身体を止めることが出来ずにいた
息が荒くなる、どうすることも出来ない
ここまで生きてきたのは無駄だったのか
母さん、父さん、兄さん、弟…もうすぐ私もそちら側へ行けるかもしれないと覚悟を決めようとした時だった

「お前。僕の家に来ないか」

「え?」

小さな少年が呟くようにして言った言葉は衝撃的なものだった
私たちは今まで人間として扱われることはなかった
だから犯罪が日課、人の心の温かさを知らない
そんな中での日々
信じられたのは家族だけ
どこかで聞いたことがあるユダヤ人迫害と同じようなもの
今、思ったけれど一族の名を出したということは、この二人が加害者であることも考えらた

「私は…行かない…」

「うーん…そうですね。このままだと盗みを目撃した以上は警察に突き出さなければならないのですが…まぁ、選択はあなたの自由ですが。そうと決まれば…」

黒い彼の方が見えぬ速さで私の後ろに移動すると両手を私の両肩に置いた
驚いて隣を見れば目がルビーのように紅い
何かを食いつくそうとしている悪魔のようにすら見えた
抵抗しようと思うにも身体が微塵も動こうとしない
そして私の心も食い尽くされてしまったかのように口が相手を許してしまっていた

「分かっ…た…行く…行くよ」

一瞬悪魔は口元を歪ませた気がして鳥肌が立った
近くで見ていると整った綺麗な顔つきをしている
少し長めの黒髪もそれに似合っている
私が承諾すると、先ほどの手がするりと滑り落ちるように離された
そして私に手を差し出す

「そうと決まればお屋敷に案内いたしましょう。夜道は危険ですので馬車まで手を」

微笑すれば白い手袋がはめられているのに気づいた
流石の私でも手袋をされた手を差し出されるというのは良い気分ではない
手を差し出そうかと戸惑っていると向こうが、それに気づいたのか手を引っ込めた

「あぁ…失礼いたしました」

優雅な手つきで手袋を外すと再び手を差し出してくる
はっきり言えば、まだ信用しきってはいない
けれどこの手を取ればきっと何かが変わるはずだと信じた

「さぁ、行くぞ。もう夜も更けそうだ……月が異常に輝いて見える…」

その少年の姿がはっきりと見えたのはその時だ
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