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出会えた奇跡

第1章 暗闇の光


はっとして目を見開いた
彼が持っているのは紛れもなく私が店から奪ってきたものだった
その果実には少し傷があったし多少は赤いが青々とした部分が大半だ
店の品はなるべく傷物を盗ってこないと店の主にばれると思い昔からそうしてきた
だが、何故目の前の怪しい男がそれを手にしているのか分からない

「その林檎、私が買ったもの!落としちゃったみたい…」

作った人懐っこい笑みを浮かべては林檎を返してもらおうと善人面をして歩み寄った
するとその男は林檎を手渡すのではなく私と真逆の方向へと差し出す
不思議に思っていると黒い彼の影から眼帯をつけた小さな少年が出てくるのが見えた
月明かりが次第に雲に覆われて消えていく
それは次第に雨へと変わり何かを変える予兆にさえ感じた

「この林檎…あの店から盗んだんだろ?」

顔はよく見えないが、まだ幼い涼やかな声が私の耳まで響いた
一瞬何も見えない視界がぐにゃりと歪むような気がした
生まれて盗みをするまで気づかれたことは今までにない
それは当たり前のことだった
私たちの一族がそうであったように、この技術は誰にも真似できるものではなかった
けれど私たちの一族は、ある日を機会に崩れ落ちることになった
表の世界では決して公表されないこと
だから、その真相を知るのは私と加害者だけだ
私は見つけなければいけない
そのために生きる必要がある
自分の為だけに

「…何のことか…分からないけど?」

とりあえずしらばっくれることにする
私は決してここで終わるわけにはいかない
誰が世界の中に私たちの存在を認めなかったとしても


生きる



「証拠はありますよ。きちんとね」

黒い彼が一枚の写真を見せてきた
それは紛れもなく林檎を服に忍ばせようとしている私の姿
この時ばかりは、もう終わったと思った
これが公表されてしまったら私は生きてはいけなくなる
けれどよく考えれば不思議なことだ
一体どうやってこの技を写真に収めたのか私自身が他人に興味を持った瞬間だ

「怪しいかったので後をつけさせていただきました。ただならぬ気配を感じたものですから」

「セバスチャン…こいつが例のシィラ一族なのか?」

「そのようですよ。坊ちゃん」

黒い彼は冷静に少年に笑いかけた
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