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出会えた奇跡

第1章 暗闇の光


ある日突然
運命とも言える出会いをした
それは私より小さいけれど、どこか大人びた少年…いや、主人と黒執事だった

-出会えた奇跡-

夜、寒い銀色の風が荒れるように吹いていた
視界が霞んでいつ倒れるか知らない足取りで進んでいる私
ここはロンドンという華やかな街であるはずなのに私の心はいつもこんな夜の暗闇にそっくりだ
夜になれば顔も見えづらい
行く当てもない私は今日も盗みをして生きていくしかないのだ
そっと果物屋の前まで来ては、素早い手つきで赤い果実を取る
これだけは慣れたもので取ったと分かる者はそうそいいない
長年の経験の末、身につけた技
してはいけないと知りながらも、こうしなければ生きていけない
親も兄弟も失った以上、帰るところもなければ食べるものもない
いつまでこうしていなければならないのかと考える時がある
いっそこのまま寒いところで眠ってしまおうかと常々考えているのだが、やはり本能には勝てない
それに生きたいという思いが心の内に灯っているのだ
厄介だと思いながらも今日も静寂の中をただ一人足音なく歩くだけだ

「はぁ…寒い…」

手をこすりながら息を吹きかける
闇の中は誰もいないし何だか安心できた
いつもの場所に帰って取ってきた果実を取り出そうと服をめくった時のことだった

「あれ…」

服の中に入れたはずの果実が姿を消している
どこかで落とすわけはないし誰かに取られるはずもない
そうだとしたら一体何が起きたのか
慌てて来た道を戻ろうとすると前方にゆらりと黒い人影が立ちふさがった
それは何も言うことなくこちらに近づいて来るだけだった
見覚えはないけれど、もしかすれば有能な警官が私の盗みを見ていたのかもしれないと冷や汗をかいた
とにかくここから逃げなければならないと脳裏では考えていた
しかし黒い影が迫って来る方向にしか逃げ道はない
ここは危険を承知で駆けていくしかないと思い一歩踏み出した時のことだった
雲に隠れていた月が姿を現して光りを浴びせた
その下に待っていたのは黒い正式な服を着た男と言っていい
右手には何故かあの赤い果実が彼の手の上で怪しく綺麗に輝いていた

「あなたの探し物はこれですね」

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