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靴屋な赤葦と出会うはなし

第1章 靴がくれた出会い


「すみません、俺がぶつかったから貴方の今日の予定、駄目にしました」
「今日、靴を探しに来たんです。商店街に来たのは久しぶりで、余所見してたのは私もです。お相子です。だから謝らないでください」
 深々と下げられる頭に、慌てて顔を上げさせると目が合った。
「通ってた靴屋が一年くらい前に潰れて、靴を足さないで片っ端から履き潰してしまったんです。職場に履いて行くものはストックしてたんですけど、それ以外は全部。だからこのブーツが・・・・」
 そこまで言っては口を噤んだ。みなまでは言わなかったが、もう言ってしまっているも同然の言葉に、彼は悔いた表情を一層濃くした。
「・・・・ごめんなさい、余計な事を言いました。気にしないでください」
 無理だとわかっていながらも、は曇った顔の彼に言い聞かせた。事故だなんて思わないで欲しかった、石にでも勝手に躓いたのだと思って欲しかった。だけど、彼は真面目のようだから石に躓き倒れたとしても、に声を掛けたかもしれない。

「あの、靴見ていいですか?」
「・・・・はい。今、手を貸します」
 がっしりとした彼の腕を杖代わりに、は靴に触れた。靴屋にしてはやや広い店内に展示された靴は男性靴が多く、女性靴は全体のおよそ三分の一ほどだったが、気にならないほどの充実振りで。懐かしささえ感じる靴の感触に沈んでいた心も幾許か安らぐ。
「ふふっ、このパンプス、可愛い。こっちのブーティも素敵」
「・・・・靴、本当にお好きなんですね」
「はい! どんな靴でも隔たりなく好きです。今は空っぽだけど、いつも靴箱に目一杯の靴を入れてて、履くだけじゃなくて見てるだけでも手入れ作業も楽しいし! 毎日、靴を買う為に働いてる!って感じです」
「俺が携わるもので、楽しみや幸せを見出して貰えるのは嬉しいです」
 満面の笑みで語るを、彼は穏やかな笑みを浮かべて聞いていた。見守るような目が何だか照れくさく、噛み締めるような言い方に思わず顔が火照る。紛らわす為にブーティを試着してみていいか尋ねると、バッサリと却下された。
「・・・・ブーティ履いてみていいですか?」
「駄目です、足に障ります」
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