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靴屋な赤葦と出会うはなし

第1章 靴がくれた出会い


 静かな動作で背を向けしゃがむ男。見知らぬその背に素直に身を預ける程、は愚直ではない。両手で折れたヒールを包み、危なげな足で後退っている。男は溜め息を吐き、立ち上がったと思えば無理矢理を抱き上げた。
「すみません。でもすぐ着くんで」
「っ、困ります!降ろして!」
 男の長い足がの来た道を遡り、一つ目の十字路を右に曲がって間もなくの店に入った。両開きのドアをくぐって、店の真ん中に位置取られた椅子に降ろされる。男は店の奥に消え、はする事もなく壁一面の棚に並べられた靴達を眺めた。探していた靴屋は、この男の職場だったのか・・・・。
 靴屋は最近出来たように新しく綺麗で、内装や纏う雰囲気があの閉店したショッピングモールの靴屋に似ている。お店にも、生まれ変わりってあるのかな。は編み上げブーツを見つめながら思った。もし、もしもそうなら・・・・。
「足、痛みますか?」
 気が付くと、目の前に救急箱を抱え、膝を折っている男がいた。「痛く、ないです」と咄嗟に答えるが、転んでから足を動かしていないから、足の痛みなど分からなかった。立ち上がったのも男に引き上げられたからだし、この店までは男に抱えられて来た。自力ではない。
「一応、確認していいですか?」
 断りを入れて男はの編み上げブーツを脱がし、靴下の上から足首を触った。撫でられている分には何も感じなかったが、少し力を入れて掴まれると痛みが走った。
「いた、い」
「やっぱり」
 靴下を脱がされて、テーピングと包帯を素早く丁寧に巻かれ、保冷剤を当てられた。処置は迷いがなく明らかに慣れていた。自身が気付かなかった捻挫に、彼はどうして気付いたのか、は保冷剤を受け取りながら訊ねた。
「どうして、分かったんですか?」
「ヒールは強く出来ています。人間の体重を支えるところですから。そのヒールが折れるとしたら、継ぎ目とか傷とか弱いところに負荷がかかった時。そんなところに力が加わるなら、足も変な方向に負荷がかかって捻っていると思いました」
 よく、考えが回る人だと思った。だけなら、下手をすると家に帰り着くまで気付かなかったかもしれない。
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