• テキストサイズ

靴屋な赤葦と出会うはなし

第1章 靴がくれた出会い


 丸一年。は閉店したあの贔屓の靴屋で買った靴だけで毎日を過ごした。だが、暴力的に言ってしまえば靴も消耗品だ。手入れを欠かさずしていても一足、また一足と履けなくなっていく。履ける靴がなくなってしまうのは困る。流石にマズイと近所の商店街にあると言う靴屋を探しに家を飛び出した。
 履いた靴は奇しくもあの靴屋で最後に買った編み上げブーツだった。同時にあの靴屋で買った靴の最後の生き残りだった。

 商店街は、知らないうちに煉瓦タイルのオシャレな通りに大変身を遂げていた。あった筈の古くてシャッターで閉ざされ気味だった店群はなくなり、イマドキって感じの明るい店が多く開いていた。
 見覚えのない店を観察しながら、目的の靴屋を探す。あの店ではない、この店は違う。きょろきょろと見回すうちに擦れ違う人とぶつかり、激しく転んだ。打ち付けた尻は痛み、「すみません」とぶつかった男性が声を掛けるが、はそれどころではない。
 最後の一足だったブーツのヒールが折れたのだ。もう、泣き出してしまいそうで、声も出ない。ただ、右手にヒールを握り締め、左手で欠けたブーツのヒールがあった部分を撫でたまま、座り込んで動けなかった。
「立てますか? 怪我とかありませんか?」
 は緩く頭を横に振った。痛むのは打ち付けたところではない、心だった。ぶつかって転んだ程度で5センチのやや太いヒールが折れるなんて考えた事もなかったし、ましてや靴を愛し、大切にしてきたは大きな傷はおろか、靴のヒールを折った事など一度もない。何も考えられない頭で絶望を味わっていると、またぶつかった男性であろう声が降る。
「靴、弁償します。俺の店でいいですか?」
「・・・・弁償? あなたの、お店?」
 上手く掛けられた言葉を飲み込めないでいると、腕を掴まれ、力づくで立たされる。急な行為と不安定な足にふらつき、自分を持ち上げた腕にしがみつけば、の顔を覗く男の顔が近づく。少しうねった髪と眠たげな眼。
「その足じゃ歩けないですよね。俺、おぶります」
/ 6ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp