• テキストサイズ

靴屋な赤葦と出会うはなし

第1章 靴がくれた出会い


 始まりは一枚の張り紙だった。最早、その靴屋の為に行くようになったショッピングモール。どんな種類の靴も置いてあるレディースオンリーの靴屋。靴が好きすぎて、靴のジャンルで服のコーディネートを決めるの憩いの店だった。
 その店に貼られた“閉店のお知らせ”。衝撃的過ぎて、呆然と張り紙を見つめた。何度読み返しても事実は覆らない。10分も張り紙と向き合っていると、顔馴染みのすらっと細い女性店長が声を掛けた。
「畳まれる、んですか・・・・?」
「そうなの。この位置、地味に家賃高くて・・・・退店するわ」
「・・・・私、靴屋はここが一番のお気に入りでした。寂しい、です」

 靴屋の最終営業日、閉店セールの張り紙が飾る店内に展示される靴を見て回った。残された靴でも、魅力的な靴ばかりで出来る事なら自分が全て買いたかった。それが、に出来る店への恩返しのように思えた。けれど、にそんな大金はない。
 せめて、せめて一足買って帰ろう。一番値が張り、一際目を惹く編み上げブーツを手に取り、足を通した。
「あ、れ?」
 自分で靴紐を閉め直し鏡に立っても、どこかしっくり来ない。サイズは合っている。ヒールが高すぎる訳でもない。困惑しながら試着の為に用意された椅子に座ると、見慣れない物腰の柔らかな老人店員がブーツの紐に手を掛けた。
「お嬢さん、これで如何ですか?」
「え? あ、ピッタリです・・・・」
 一瞬だった。吸い付くようにブーツはの足を彩った。紐をどう触って直したのか、には分からなかった。
「これ、・・・・買います」
「はい。いつもご贔屓にして下さり有難うございました」
 ブーツを調整してくれた老人店員は会計をしながら店のオーナーだと名乗った。靴屋に通い詰めたに少し寂しげに微笑みながらお礼の言葉を繰り返し、ブーツが入った紙袋を差し出した。両手で受け取った筈なのに、ブーツはずっしり重かった。
/ 6ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp