第1章 6粒の幸せ〜仁王 雅治編〜
「…仁王?」
バタンと閉じられた扉の向こうから目を離せずにいた俺を不審に思った丸井が、ぱたぱたと手のひらを顔の前で上下振り下ろした。
「どーかしたのか?」
「いや、どーもなか」
首を傾げて聞いてきた丸井に適当な答えを口にして階段を一段一段降りて行く。
「ちょっ、待てよ!」
置いて行かれた丸井が慌てて後ろからついてくる音が聞こえてくるが、俺の頭の中はさっきの女子生徒の姿で一杯になっていたのだ。
何組なんじゃろ、とか。
名前は何て言うんじゃろ、とか。
普段こんな風に人を気にすることは滅多に無いのに、一目見ただけの彼女がこんなに気になるとは…。
それほどまでに俺の記憶の中にストンと落ちてきた彼女に、興味を抱いていたのもまた確かだ。
新しいおもちゃを貰った子供のように、高鳴る胸の鼓動に気づかないふりをして俺と丸井は教室に向かった。