第2章 あの日から
「え?・・・どうして?」
「君の命が危ういからだよ。
ミモザ、君のお母さんが亡くなったのはただの事故のせいだと思ってるの?
だとしたら余りに脳天気だね」
「脳天気って・・・だって、車の自損事故って、警察の人が言ってたし・・・」
「あのね、 ミモザ。
君の母親は、殺されたんだ。
事故とみせかけて、ある組織から雇われた殺し屋に殺された。
そいつは君のことも狙うかもしれない。ここにいては危険なんだよ。
だから、 俺はミモザを助けるために迎えに来た」
まさか、と言うべきか、やはり、と言うべきか。
先ほどまでの晴れ晴れとした気分は吹き飛び、重苦しい気持ちになる。
我が家はもうゾルディック家とは縁が切れている。だから安全だ。
母は昔、そう言っていたではないか。
そのことも、今思い出したのだが、昨日のことのように思い出せる。
あのとき、そばに今よりずっと幼いイルミさんもいた。
髪は短かったけれど、同じ黒い瞳で、私に言った。
「じゃあ ミモザ、次会うときまで、バイバイ」
ずきりと痛んだこめかみに、手を添える。
立ち眩みがして、思わずその場にしゃがみ込んだ。
「急がせちゃったみたいだね。ゆっくり思い出したほうがいいよ。 近くに車を用意してるけど・・・立てそう?」
遠くに聞こえるイルミさんの声に、小さく頷いた。
しかし、立ち上がるどころかその場に膝をついてしまう。
「無理みたいだね。ちょっと、ごめんね」
体が急に浮き上がった。一瞬のうちに、イルミさんの胸に抱き抱えられていた。
イルミさんはそのまま、すたすたと歩き出す。
私にとって 人生で初めてのお姫様抱っこだったけれど、めまいのためその感覚をゆっくり味わうことはできなかった。
ただぼんやりと、考えていた。
このまま、どこかへ連れ去られたとしても、今の自分に失うものなど何かあるだろうか、と。