第6章 師弟関係(イルミ/年上師匠/甘)
「行こ」
リネルの手を引くと前に足を進めるイルミを見上げてリネルは聞いた。
「どこに?」
「どっかホテル」
「ちょっと…待ちなさい!」
「なに、今更」
イルミは手を引っ込めるリネルを見下ろすと両手を腰に当てる。
「言ったでしょ、あなたは教え子なんだから…そんなのダメ」
「キスしたよ」
「それは…それはともかく!そういう事はダメ」
「何が違うの?」
「それは…」
困ったような顔をしているリネルはキスのせいかすっかり目を潤めており、幼い外見も伴ってか言っている事に全く説得力がなかった。
「…とにかく、ダメ。言うこと聞いて」
「やだ。リネルの教え子だったのは昔の話だよね、今はただの男と女、対等ならそうだよね?」
「そうだけど…。でも私にとってはずっと、可愛い教え子なんだよ…」
「過去にこだわってるのリネルなんじゃないの?…あ、じゃあこうしようかな」
イルミはリネルの前にスッとしゃがみこんで下からリネルの潤んだ目を見上げながら言った。
「当時の可愛い教え子の俺のお願い。
対等になれるまでに成長したご褒美ちょうだい、リネルさん」
自分の目線よりも低い位置にあるイルミの顔を見つめ返し、見慣れない光景に瞳を揺らしたリネルは、諦めたように小さな溜息をついた。
「……都合のいい時ばっかり。…そういえばあなたは無口そうに見えて口が達者だったよね」
「そう?」
イルミはそのままリネルの手を取ると立ち上がり、2人はすでに明かりが減ってきている夜の街へ消えた。