第17章 お願い(イルミ/シリアス/裏なし)
どんどん涙に滲むリネルの視界。
もう時間がない、気持ちを告げるなら今。一度 深呼吸をしてからイルミにはっきりと告げた。
「イルミ………」
「なに」
「私ね、イルミの事が………好き」
「うん」
「小さい頃からずっと好きだった」
「知ってたよ」
他に友達も異性も周りにいないリネル、他人にもわかってしまう程の態度、本人に気づかれていてもなんら不思議はない。
イルミの答えも予想は出来る。自分と同じく家の道具にされるであろうあの家の子供達は皆 どこかの令嬢とでも婚姻を結ぶ。それが正しいと思うし、それ以外の選択肢は想像出来ない。答えなど聞いた所で自分がより虚しくなるだけだ。
イルミはゆっくりとリネルに近付いた。
今日はリネルの誕生日、最期くらいは願い事を言ってみてもいいだろうかとリネルは思う。
「イルミ……お願い聞いて?」
イルミが足を止める。
イルミはイルミでリネルの事をよく知っていた。親や周りに従順で我儘を言っている所は見た事もない、裕福な家庭のお嬢様にしては欲もなく控えめで一般的に言う「よく出来たお嬢さん」である。
自分の立場を理解しているリネルの最期の願い、無理な事を言わないのはわかった上で答えた。
「いいよ、なに?」
「…殺し方を指定してもいい?」
「いいけど持ち合わせがない方法は無理だよ」
「わかってる」
リネルは机の引き出しの奥から小指大の小さな小瓶を取り出しそれをイルミに手渡した。透明な液体が少しだけ入っている。イルミは瓶の蓋をあける、鼻を近付けただけで中身がなんなのかすぐにわかった。
毒
新種の猛毒、何故リネルがこんな物を持っているのか リネルの父親のやっている事を考えれば想像はつく。おそらくはこんな日のために掠め取っておいたのだろう、予想を立てた上で聞く。
「どうしたの?これ」
「沢山あったからパパの書斎からもらった」
「これだけで数百万はするよ、この毒」
「……やっぱり毒なんだ」
やっぱり などと言いはしたが誰に確認した訳でもなくリネルには瓶の中身はそうだとわかっていた。あの日父の書斎でこれを見た時 咄嗟に手が伸びたのだ。最初の、そして最期の、リネルが父に働いた悪事であった。