第17章 お願い(イルミ/シリアス/裏なし)
「部屋に通して」
「かしこまりました!」
メイドが弾んだ足取りで部屋を去る。
しばらくすると凛とした姿のイルミがリネルの部屋に顔を出す。
今日はリネルの誕生日、メイドの言う意味での淡い期待が心にないかと言えば嘘にはなる。あり得ない事など重々承知な筈なのに少しだけそんな夢を見てしまう。愚かな自分の心を隠すように とびきりの笑顔でイルミを迎えた。
「久しぶり、イルミから来てくれるのは初めてだね」
「うん。今日はリネルに用があってさ」
普段と少しも変わらず淡々とした様子のイルミを見て リネルの表情が若干強張る。リネルの疑念が核心に変わる、イルミの用件と言えば一つしか思い当たらなかった。
「用…って……?」
「多分リネルが想像してる通り」
「……私を殺して欲しいって依頼が、ゾルディック家に来たの?」
「そう」
やっぱり、不思議と驚きはなかった。16歳を目前に親が決めた相手との政略結婚の話が持ち上がった、相手はただ家に有益な顔も知らない一回りも年の離れた相手。婚姻が正式になれば裏社会にはそれを面白く思わない存在がいるのは当たり前、記憶にあるだけで過去に二回誘拐された事もある。
イルミはじっとリネルを見つめる。
リネルを殺すことなど1秒もかからないであろうに、すぐにはそれをしないイルミ。その場の気まずさを誤魔化すようにリネルは自重気味に告げた。
「…ゴメンね、嫌な役やらせちゃって」
「嫌な役?」
「子供の頃から知ってる私を殺すのはやっぱり気分悪いかなぁって」
「親父の命令だし仕事だしそんな事は思ってないよ」
イルミらしい。
黙り込むリネルの目に涙が滲んでくる。
それを見せたところで 仕事を完全遂行するゾルディック家の人間に意味などない事はわかっている。
リネルの殺しをイルミに命じたのはあの家の父親かと シルバの凛々しいその顔を思い出す。何度も顔を合わせているのに容赦もない、ゾルディック家の当主らしいと思う。と同時にこの仕事をイルミに命じたのはリネルへのせめてもの情けなのかとも思えた。最期くらいは胸に思う人物の顔を見て生涯を閉じれるようにと。シルバの中に親を見た気がした。