第17章 お願い(イルミ/シリアス/裏なし)
イルミは瓶の中身を口に含む、そしてリネルの腰を片手で引き寄せるとその唇に自身のそれを重ねた。
小さな唇を毒液の絡む舌で割り、そのまま深くリネルの口内に押し込んだ。
「ん……っ、」
途端驚くようにイルミの胸元の服をぎゅっと摘み、身体を引くリネルの腰に腕を回し強く固定する。逃げるリネルの舌を捕まえ自身の舌先で求めてゆくと、次第に固く緊張していたリネルの身体が緩んでいく。
リネルの願いとはこういう事だ。
「イ…ミル……ッ、」
幼い頃は数える程度であるがイルミと手をつないだ事くらいはあった。しかしそれ以上触れ合う事などあるわけもなく、自身の最期の願いであるとは言え イルミと大人のするような深い口付けをする事に 自分の純粋な恋心を裏切るような 妙な背徳心も感じた。
この口付けの先を望む気もないし、意味を持たせる気もない。
リネルはただ イルミに触れながら最期を迎えられる事に喜びを感じていた。
その幸福感は身体の感覚に奪われ、どんどん力が抜けていく。
イルミはずるりと膝を折るリネルの背を支えながらゆっくり口を離す。リネルの呼吸が小さくなる、必死に口先で言葉を紡ぐ。
「私、今日…誕生日…なの」
「そうなんだ」
「…………だから、も…ひとつ、お願い、聞いて…」
「いいよ」
「わたしのこと…ずっと…わすれ、ないで……」
「忘れないよ」
眠るようにリネルは息を引き取る。
最後まで聞き分けのいいお嬢さんだとイルミは思う。
力をなくしたリネルの亡骸を抱き上げ、部屋の奥にある大きなベッドに下ろす。
血の気が引いたリネルの顔は陶器のように白く滑やかで本当に死んでいるのかわからなくなる程。眠っていると表現する方が正しいように見える。
「オレは自分でこなした仕事は忘れないよ」
そう言った後、イルミはリネルの部屋を去った。
fin