第9章 想い
1時間ほどかけて事務所に着いた
中へ入ると晴実さんが
私に気づいて手招きした。
「急に呼び戻してごめんなさいね」
「いえいえっ!そんな!」
「さ、とりあえず座って」
晴実さんは座りながら、
数枚の紙を机に広げた
それは契約終了を意味するものと
隆平くん達とのこれからを
記した書類だった
「先にこれ、渡しとくから。」
「…はい」
戸惑いつつ受け取ると、
晴実さんは優しく私の手を握る
「みんな、そうよ。
母親代理してたらね、
みんな情が湧いて離れられないの
でも、それを割り切るのも大切なの」
俯いて、唇強く噛み、
涙をこぼした
「大丈夫。みんな分かってくれるわ」
「…っ、」
まだまだ未熟だ。
でも割り切るなんて、
今は無理だ。
あの家族はやっと、やっと
少しずつだけど
前を向き始めたのに。
離れるなんて…。
「ちゃん、」
「…すみません、大丈夫です」
へへ、と笑うと
晴実さんは頭を撫でた
「貴女は強くないんだから。
辛かったら、休みを取ってもいいのよ」
「…大丈夫です」
数枚の紙をファイルに入れて、
カバンにしまう。
「あと少し、頑張ります」
震えていた、手に。
力を込めた。
大丈夫と言い聞かせながら…。
「……は?なに、それ。」
和也くんが聞いてるとも気付かず…