第11章 10月10日限定彼女(銀八side R-18)
「仕事で着るような服じゃ浮いて目立っちゃうだろうから、こういう服にしたんだけど」
伏し目がちになった先生の頬が赤く染まっていた。
「すげぇ可愛い」
俺はやっと言葉を継いだ。
「え?」
顔を上げた先生にもう一度言う。
「すげぇ可愛い。いつもとギャップがありすぎてびっくりしたけど、こういう格好も似あってますよ」
そして周りに聞こえないように囁いた。
「こういう格好してれば、俺ら大学生のカップルに見えるんじゃね?」
「そんなにサバ読めないよ」
「じゃあ、年上の彼女ってことで」
それから俺たちは、順番が来るまでの間、他愛もない話を続けた。
「あー、やっぱりこのパフェが美味しそうだなあ」
「食事になるもの食べずにパフェだけでいいの?」
「じゃあパフェ2ついっちゃおうかな」
「……パフェ2つ?」
「あーでもそんなことやってたら、尿から糖が出るようになっちゃうかな……」
「そうね、糖尿病がひどくなると、枕営業もできなくなるしね」
「愛里せ……」
思わず先生、と言ってしまいそうになって、言葉を飲み込んだ。
「……愛里『ちゃん』は、俺が枕営業してるって本気で信じてるの?」
「坂田くんが、前自分で言ったんじゃない」
「そうだけどさあ」
「でもまあ若いし、運動不足でもないんだから、好きなだけ甘いもの食べればいいんじゃない?」
「じゃあ、2人で食事になるようなものと、パフェと頼んでわけっこしようか」
「そうね」
メニュー越しに先生の顔を見る。
本当に先生が俺の彼女で、こうやってデートしているんだったら、どんなにいいだろう。
俺は隣の先生に聞こえないように、そっとため息をついた。
念願のパフェを一口頬張る俺の姿を、先生は頬杖をつきながら見ていた。
「おいしい?」
「おいひいでふ」
先生は目を細めて微笑んだ。
「よかったね」
「せ……、愛里『ちゃん』にもあげるよ」
「私はいいわよ。全部坂田くんが食べて」
「じゃあ、せめてイチゴだけでも」
俺がスプーンですくったイチゴを、先生の形の良い唇が、ぱく、と食べた。
「あ、美味しい。いいイチゴ使ってるのねコレ」
「でしょ。あー幸せ」
そんな他愛のない会話をしながら、俺も、先生も、お互いに「ソレ」に踏み込むのを避けていた。
本質を突かずに、その周りをぐるぐるぐるぐる。
思っていたよりもずっと俺は臆病者なんだな。