第10章 急転直下(銀八side)
「じゃあ、1日何でも言うこと聞いてくれますね?そうですね、10月10日がいいな、文化祭の代休だから」
「……10日……?」
確実に俺が二人の話を聞いていた証拠を突きつけながら、俺は言った。
あの教師が空けとけっていってた日を、俺のために使ってくれる?
それは、先生の心を占めているであろう、あの教師への宣戦布告でもある。
「俺、10月10日が誕生日なんです」
「……誕生日?」
「そうなんです。だから、その日1日何でも言うこと聞いてくれますよね。まずは、誕生日プレゼント代わりに、女性連れじゃないと入れないお店で、有名なパフェ食べさせてください。それで……」
俺は先生を抱きしめ、耳元にささやいた。
「そのあとは、誰にも邪魔されないところで、先生をいただきます」
ね、と、俺は笑顔で先生に言った。
先生、どう出る?表沙汰にはできない関係を持ってる大事な男のために、他の男に抱かれる?
しかもそれが生徒だけど。どうする?
先生が綺麗な眉をひそめ、唇を強く噛んだ。
その仕草に葛藤が見て取れる。
ああ、そんなに噛んだら柔らかい唇から血が出ちゃうって。
あ、そうか、俺のせいか。
いじめすぎたかな。
でも、たとえ俺に対する嫌悪や憎悪が勝っていたのだとしても、俺のことをそんなに真剣な顔で考えてくれているのは嬉しくもある。
愛里先生のことになると、俺ってちょっと、いや、かなり、頭おかしくなってるな。
ややあって、思いの外、先生はきっぱり答えた。
「……わかった」
そう、そう来ると思ったよ。
今までも俺の挑発には全部乗ってくれたよね。
悪いけど、今回は本気でいくよ。
先生が、まさかあんな男のものだったなんて、ほんとは信じたくもないからさ。
「じゃあ、その日は先生1日、俺のものね。俺って、本当に口堅いから、安心して」
俺は右手で先生の身体を抱きしめたまま、左手で愛里先生の顎を軽くつかみ、そのまま唇を重ねた。
さっき強く噛んでしまった先生の唇には血がにじんでしまっていたから、かすかに鉄の味がする。
うん、契約完了だね。
もう、逃がさないよ。