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第10章 急転直下(銀八side)
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「先生、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、大丈夫……」
「あぶなっかしいなあ」
俺はそう言って先生を抱きしめたままでいた。
先生のつけている香水なのか何なのか、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。
もう少しこのままでいたい。
いや、ほんとは、ずっとこのままでいたい。
「先生、この本棚はモノがたくさんありすぎですよ。大掃除しないと」
「そうね。夏休みに大掃除すればよかったわね」
「二学期の終わりにでも、大々的に大掃除しましょう。俺が手伝いますよ」
「ありがとう」
「……」
「ねえ、坂田くん」
「何ですか」
「もう、大丈夫だから、離して」
「……やだ」
「やだじゃなくて」
ちぇー。
俺は椅子の上に立つ先生の身体を両腕で抱え上げた。
俗に言う、お姫様だっこ、というやつだ。
「ちょっと!何してるの」
先生が俺の腕の中で身体をよじる。
「暴れたら落としちゃうよ」
先生の動きが止まった。
さすがに暴れられたら俺の腕では支えきれなくなるから、本当に危ない。
「重いでしょ」
「重くないよ」
柔らかい先生の身体。
このままずっと抱えていたい、と思う。
ソファの上にそっと下ろす。
「坂田くんて、力があるのね」
「惚れました?」
「何言ってんの」
瞬殺かよォォ。まあいいけど。
「先生は、こんなふうに、誰かにお姫様だっこしてもらったことないんですか?」
そう聞くと、先生は少し顔を赤らめたように、俺には見えた。
「……うん、そうね。だからびっくりした」
え?マジかァァァ。
これはちょっと役得だったな。
先生の初めての経験を一つもらって、俺はすげえ嬉しかった。
「それは、他の男がちょっとだらしないんじゃないですか?俺は、先生が望めば、いつでもお姫様だっこしてあげますよ」
「何それ」
「いや、教室から資料室までとか。万事屋銀さん、平気で運びます」
「嫌です」
「照れなくってもいいですって」
「そうやって、色んな女にお姫様だっこしてあげてるのね」
「そんなことないですよ」
「どうだか」
今度は俺が丸椅子の上に立ってその本を取り、資料室を出たあとも、俺の腕にはさっき先生を抱きしめた感触が残っていた。
先生の甘い香りが俺の身体に降りかかって、いつまでも消えずに残っているような気持ちになる。
もっと、ずっと抱きしめていられたらいいのに。
俺の腕の中に、ずっといてくれたらいいのに。
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